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2019-01-08

“働く”をチューニングする その2「組織・コミュニティとの幸せな付き合い方」

“働く”をチューニングすると題したこのシリーズ、前回は働く個人としての「キャリアの自己決定と偶発性」について考えました。

今回は、個人の視点から見た組織・コミュニティについて考えてみます。
世の中にはたくさんの“経営論”“組織論”の書籍があふれていますね。それだけニーズがあるということですし、経営者やマネージャーにとって、“人と組織”に関わる悩みは尽きないものです。

しかし、逆の立場、つまり働く個人の立場からの組織・コミュニティとの付き合い方については、語られる機会はそれほど多くありません。

会社組織への所属は個人にとってどんな価値があるのか

改めて考えてみると、「マズローの欲求段階説」に近いことがわかります。

① 金銭的収入・社会保険・社会的立場の獲得、生活の安定(安全の欲求)
② 所属による安心感、構成員や関係者との出会い・つながり(社会的欲求)
③ 他者からの承認、マインドやスキルの自己成長(承認の欲求)
④ 組織理念への共感、社会における自己実現(自己実現の欲求)


一方で、日本企業の強みでもあった“終身雇用・年功序列”は崩れつつあり、いわゆる“安定”つまり上記の①及び②が揺らぎやすい時代です。“どんな会社だっていつどうなるかわからない”という不確実性を共有しながら私たちは働いています。拠り所としての会社組織の役割が、薄まりつつあるのではないでしょうか。

私が出会う就職活動中の大学生や20代前半のビジネスパーソンも、最初の会社でずっと働き続けることは期待していないということが多くあります。

私自身は、世代的に“よかった時代”というものを知りませんし、公務員を辞めた時も安定した職を失ったという認識はしていませんでした。価値が揺らぐ時代に対して不安感を抱くというよりは、“それはまあ、そもそもそういうものだろう”という前提のひとつぐらいにしか捉えていないのだと思います。複数の組織に所属しながら働く現在の私としては、いかに④を達成できそうか、ということが判断基準です。

これを読んでいるみなさんは、組織で働くこと・所属することにどんな価値を感じているでしょうか。

成果と幸せが両立される強くあたたかい組織

社会的理念・理想の実現、同僚との一体感・切磋琢磨、家族とのあたたかい時間、のめり込んでいる自分の趣味。そこに優劣はなく、人それぞれにちがいがあり、多様なものです。

そして、その価値がどんなものであれ、働くこと・所属することを通して、個人の幸せが実現されるべきだ、と私は思っています。逆に言えば、会社の成果・利益のために社員が消耗部品のように扱われるべきではないし、仕事を通じて人生がスポイルされる(台無しにされる)ことがあってはいけない、そんな権利はどんな会社にも経営者にも存在しない、ということです。

残念ながら、時に痛ましいニュースが流れ、身近な友人や家族、そして私たち自身が困難な状況に置かれることもあります。

しかし、“組織の成果と個人の幸せの両立”を志す、そもそもそうした環境を前提・出発点にしようとする組織が増えつつもあります。

『ティール組織(フレデリック・ラルー/英治出版)』で紹介されている組織、『なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか(ロバート・キーガン/英治出版)』における「発達指向型組織」の事例は、そうした希望を感じさせてくれます。私の所属する組織のひとつである「NPO法人CRファクトリー」では、“強くあたたかい組織”と表現しています。

働くことは、金銭の対価としての苦痛ではなく、人生の喜びである。
なるべく多くの人にとってそうであってほしい。そのために私自身も、キャリア・デザインや組織づくりの支援を続けています。

組織・コミュニティとの幸せな付き合い方

とは言え、いち個人の立場から組織のあり方を変えるということには、困難も伴います。組織のスケールにもよりますが、相応の立場、発言力、人間関係、タイミングなどが必要になります。

いきなり全体に大きな変化をもたらそうとするよりは、ごく小さな範囲にアプローチすることから始めることをおすすめします。気の合う同僚、話のわかる上司、所属しているチームから。組織の“文化”を変えることには労力も時間もリスクも必要です。もちろん、いまはそこにコミットしないという選択も現実的でしょう。

また、私たちにとって、自らの欲求や価値を実現できるのは勤務先として所属している会社組織に限りません。NPO、ボランティアグループ、サークル、地域コミュニティ、サードプレイス、友人、家族も、立派な“所属先”であり、納得感の高い人生を送るためのキャリア・デザインの一貫です。

私個人としては、金銭的報酬の有無はありますが、常に5つ前後のコミュニティに所属しています。自ら選択する・動くという主体性を保つことができていれば、感覚的には多すぎるということはありません。
むしろ、私たちの価値観や感性とは、ひとつのコミュニティの中だけで完結するほど単純ではない、とも思います。人間の内面とはそもそも複雑で多面的なのではないでしょうか。

所属する組織・コミュニティを(時に複数)選択し、ちょうど良い付き合い方・距離感を発見することで、私たちの人生はずいぶん生き心地が良くなるのだと思います。

私自身の判断基準は、“メンバーを人として好きかどうか”と、“主体になりたいと思えるかどうか”という2点です。私の価値観として、事業・活動として何をやるかよりも、仲間と信頼感を持ちながら時間をともに過ごせるかということが優先されます。また、お客さん的に役割を持たずにそこに所属することは居心地が悪く、やるからには中心的な働きを担う方がかえって気持ちよく関わることができるのです。

時には、選択に失敗する(所属してから違和感が強くなっていく)こともありました。そうした時に共通していたのは、自分自身の価値観から発せられる直感を無視して、関わるメリットなどを計算して論理的に選択していたということでした。

組織・コミュニティの選び方や付き合い方は、自分自身の価値観・直感によく向き合うことから見えてくるものなのだと思います。

■所属 NPO法人CRファクトリー 理事・事業部長 一般社団法人JIMI-Lab 代表 GRASS ボードメンバー ものがたり法人FireWorks 地域プロデューサー 株式会社ウィル・シード 研修講師

■経歴・キャリア 2008年~2014年まで東京都北区役所に勤務。 公務員による自主勉強会に参加したことをきっかけに、数多くのコミュニティやプロジェクトに関わるようになり、徐々にのめり込んでいく。公務員は続けながらも、イベントコーディネーターや講師・ファシリテーター、NPOマーケティング、ボランティアマネジメントなどの経験を積んだ。 2015年から独立し、現在は複数の団体・企業に所属するマルチジョブのスタイルで、経営者やプロデューサー、コンサルタントなどの顔を持つ。研修講師・ファシリテーターとしては、年間約150回の出講を行う。

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