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2018-12-01

“働く”をチューニングする その1「キャリアの自己決定と偶発性」

私は主に、“個人の成長”と“組織づくり”を支援することを仕事にしています。その経験・学んだことから、これから「“働く”をチューニングする」をテーマに、3つの記事を書きます。

働き方の多様性が広がりつつある時代だからこそ、“自分らしく幸せに暮らすこと”と“社会や組織の期待に応えること”を両立する、生きることと働くことを近づけるためのすり合わせ(チューニング)について、考えてみたいと思います。

キャリアの自己決定と偶発性

キャリア論においては、人生や仕事において、キャリア・デザインが非常に重要だとされています。つまり、アイデンティティや自己イメージを明確にして、生き方・働き方の方向性を“自己決定”することです。

それがいわゆる“軸がある”という状態で、未来を見据えて自分の選択に納得できているので、モチベーション高く働くことができて、人生が豊かになる、ということです。

一方で、“偶発性”も大切だとされます。飛び込んでみた場所での予期せぬ出会いや、気づかなかった自分の思いや強み、新しい仕事や機会を提供してくれる他者の存在、などなど。そうしたものをあえて遠ざけずに、楽しんで流されてみることも、時に大きなきっかけや気づきにつながります。

その例として、私自身の人生を題材にしてみたいと思います。

状況適応をくり返して生きてきた

実は、私自身は、ずっと“軸”を持てなかった人間です。

子どもの頃は親や先生の期待に応えようとがんばって勉強して、大学時代にやりたいことが見つからなかったから地方公務員になり、就職してからは同僚・上司に喜んでもらえるように飲み会の幹事などつながりづくりを率先してやる。承認欲求が強く、自ら何かを生み出すわけではなく他者に依存し、状況に適応することしかできないことにコンプレックスを感じていました。

“自分には夢もやりたいこともない”“何者にもなれない”という呪いのような考えが湧き上がってきて、目の前の日々が虚しく思えていました。

何をやるかではない、誰とあるか。

そんな時、なんとなく職場の外での刺激を求めて参加していた社会人勉強会で、ものがたり法人FireWorksの脚本家、栗山宗大と出会いました。クリエイターである彼に対して、私はコンプレックスむき出しで絡みました。「さぞかし夢・目標・やりたいことが明確なんでしょうね、モチベーションは何なんですか?」と食ってかかりました。すると彼からは、“自分の支えになっているのは、どんな作品をつくるかということよりも、一緒にどこまでも突き進んでくれる仲間の存在です”という答えが返ってきました。

私にとっては、大きなカルチャーショックの瞬間でした。

そして勢いのままボランティアメンバーとして飛び込んだのが、映画「ふるさとがえり」の撮影現場でした。そこには、役割や肩書き、スキルがあるかどうかなんて関係なく、大勢の人たちがただただ一生懸命に、“自分たちの映画をつくる“というひとつの目標に向かって熱狂する姿がありました。その時私は、”この中にずっといたい“と感じていました。それは映画をつくりたいということではなくて、情熱を持った愛すべき人たちとのあたたかい関係性の中で生きていたい、ということでした。

何をやるかではない、誰とやるか。それはFireWorksの信念のひとつです。

私も、“コト”ではなくて“ヒト”を自分の人生の基盤にしよう。

それは、気づいていなかった、隠れていた、私自身の価値観(軸)でした。

そこを出発点に、しばらくして公務員を退職して、私のキャリアは徐々に広がっていくことになりました。

どうしたら、もっと人がイキイキと活躍する、しかも成果が上がる組織がつくれるだろう?居場所と仲間を感じるあたたかいコミュニティを増やし、NPOの組織づくりを支援する仕事に出会いました。

どうしたら、もっと人が変化・成長できる機会をつくれるだろう?営利企業の新入社員向けの研修を行う仕事や、若手社会人のキャリア・デザインを支援する仕事に出会いました。

自己決定を助ける“内省”の手法

私は、偶発性に助けられて生きてきました。

自分自身を振り返っての学びとしては、非論理的に、直感で動くことがあってもいいのだということです。職場の外や日常にはない出会い・学びの場に出かけていくこと、考える前にまず行動してみること、軸がないように見える状態すらも楽しんでしまうこと、など。

一方で、偶発性だけでは不十分でもあります。様々な経験をするだけではなく、経験を振り返って棚卸しや整理をすることも必要なのです。

時には流れに身を任せながらも、時には立ち止まり、自らの内発的な意志に耳を傾け、自らのキャリア・方向性を自己決定することが重要です。

転職、異動、転居、結婚など、”節目”と言われる時期には特におすすめします。

この、自らの内発的な意志に耳を傾けることを、”内省”と言います。

たくさんの手法がありますが、私自身が最も多用するのは、”シャインの3つの問い”というツールです。

エドガー・シャイン氏が開発した、以下の3つの問いについて考える手法です。

(1)Will:何をしたいか、自らの欲求は何か、好きなこと・喜びは何か、あるいは何をしたくないか

(2)Can:何ができるか、得意なことは何か、強みは何か、あるいは何が苦手か

(3)Must:何に価値を感じるか、周囲から何を求められているか、社会に必要だと思うことは何か、あるいは価値を感じないことは何か

これを定期的に(半年に1度ほど)ノートに書き出して自分に向き合うことで、自分自身の現在地を確認することにしています。

その他に、オットー・シャーマーの”U理論”、ロバート・キーガンの”免疫マップ”といった手法もおすすめですので、興味を持ったら調べてみてください。

“自分らしく幸せに暮らすこと”と“社会や組織の期待に応えること”を両立するためには、節目節目に力強くキャリアを自己決定することも、周囲が運んできてくれる偶発性に身を任せることも、その両方が大切です。

■所属 NPO法人CRファクトリー 理事・事業部長 一般社団法人JIMI-Lab 代表 GRASS ボードメンバー ものがたり法人FireWorks 地域プロデューサー 株式会社ウィル・シード 研修講師

■経歴・キャリア 2008年~2014年まで東京都北区役所に勤務。 公務員による自主勉強会に参加したことをきっかけに、数多くのコミュニティやプロジェクトに関わるようになり、徐々にのめり込んでいく。公務員は続けながらも、イベントコーディネーターや講師・ファシリテーター、NPOマーケティング、ボランティアマネジメントなどの経験を積んだ。 2015年から独立し、現在は複数の団体・企業に所属するマルチジョブのスタイルで、経営者やプロデューサー、コンサルタントなどの顔を持つ。研修講師・ファシリテーターとしては、年間約150回の出講を行う。

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