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2018-10-18

秋の風物詩「栗の渋皮煮」

三輪の田の稲穂の色が黄金色に変わり始める頃にそれはやってきます。
箱を開けるとギッシリ詰まった大きな栗が今年も花もりに届きました。

雨が降らない猛暑の夏も台風ばかりの初秋の頃も気にすることは栗のこと。何故そんなにも気になるかというと、毎年待ちわびてる方々がいるからです。

花もりの秋の風物詩「栗の渋皮煮」。

まずは水に落として栗の皮を剥いていきます。
一個ずつ慎重に渋皮を傷つけないようハサミを入れます。ただひたすら同じ作業が4・5時間続きます。
握力もいるし肩も凝ります。
目の前の景色と言えば台風が近づいてきているせいなのか心なしか殺風景な山の辺の道。庭の紅葉も木蓮も物憂げな様子。
パッとしない景色に単純作業、最初の勢いなんのそのたちまち効率が悪くなります。

肩を回し首を回しながら気持ちを振るわし視線を一点に集中させて作業続行。

単調で退屈でせわしないパラドックスな時間が過ぎます。

そんな時間の中、栗に焦点合わせた視界の隅に黒い影が動きました。
「あっジョウビタキ。」

黒い羽にオレンジ色のフカフカしたお腹、しゅっと佇むその姿は紛うことなきジョウビタキ。山の辺の道にやってくるのはいつも晩秋。
今年はこんなに早くお見かけするなんて、長旅ご苦労様です。

ここに来てからでしょうか。野鳥から力を貰うようになったのは。

ここに来てからでしょうか。夕日に反射した柿の葉に目を奪われるようになったのは。

曇天の下、晴れた心でもう一仕事。目の前の栗の山はいつかなくなっていました。

じっくり二時間下茹でしてゆっくり常温で冷ましたらたっぷりの水でアク抜きします。

一晩アクを抜いたその後は栗に付着している筋やゴミを丁寧に取り除きます。これもなかなか手間のかかる仕込み作業です。ここで手を抜いては渋味のきつい食感の悪い渋皮煮です。そんなもの作った時には農家の方に申し訳が立ちません。

全てきれいに掃除ができたら、2回目の下茹でをします。

これで少し休憩ができるのでコーヒーをいただきます。

ちなみに花もりの渋皮煮に限って言えばコーヒーはブルンジ産のブルボン種がとてもよく合います。ブルンジコーヒーの渋味が渋皮煮の一口目とよく似ていて口の中で一体感が生まれやすいんです。

気を取り直して次の作業です。
下茹でができればザルに取り鍋に栗がしっかり浸かるくらいの水を入れ火にかけます。
ゆっくり温度を上げていき栗の半量の砂糖を少しずつ溶かしていきます。全ての砂糖が入れ終われば弱火で二時間味を染み込ませます。

これまでで丸二日かかっています。他の仕込みをしながらだとかなり大変な手間になります。でもそれを越える慈味に溢れた美味しさが渋皮煮には詰まっているんです。
私のできることは余分なものを取り除くだけです。砂糖を入れることですら強すぎる渋味をやわらげるだけです。
美味しさは渋皮の中に詰まっていますから。

気がつけばもうすっかり夕方になっていました。
最近は日が暮れるのが早くなりました。暮れる前に子供と一緒に散歩に出掛けます。
花もりから真っ直ぐ西へ下る坂道を子供が全力で走ります。
子供が走る視界の向こうにきれいな双子の二上山。大きな赤い夕日は空を染めながら双子の山に沈み行きます。逆光で咲く秋桜は盛りを越えていました。
その秋桜まで走ったら今度は肩車をしてくれとせがんできました。
二人で桜井線の二両の電車が通りすぎるのを見た後はそのまま家に帰ります。

お母さんの晩御飯が楽しみな彼は肩の上で揺れています。

明日は全部瓶に詰めて保存します。

花もりの13回目の秋の渋皮煮作りのお話でした。

山辺の道花もり 河向直樹

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