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2020-07-22

トマト農家のお嫁さんがみている世界~第2回 農家のお嫁さんのリアルな日々~(聞き手:真矢)

※この記事は2018年2月に取材したものになります

第2回 農家のお嫁さんのリアルな日々

前回のおさらい

トマト農家のお嫁さんのしのさんにインタビュー。旦那さんとの出会いや、学生時代に専攻していた油絵での挫折、そして社会に出てOLやイベント会社でアルバイトをする中で、自分の適性や仕事の楽しさをみつけていったことなど、結婚する前のお話を伺いました。そして旦那さんのおうちでの農業体験を経て、結婚し、農家のお嫁さんになったしのさん。今回は、結婚してからのリアルな農家のお嫁さんライフを伺います。

結婚後の旦那さんのご家族との距離感

真矢:旦那さんのご家族に農業体験をさせてもらって「意外と出来るかも!」と思って、しのさんは農家のお嫁さんとなったわけですが、その感覚は今でも正しかったと思う?

しの:正しかったと思う。実際に結婚してみて、本当に農業体験したときのままの生活だったので。

真矢:私の勝手なイメージで、農家にお嫁にいくってことは旦那さんのご両親と同居なのかなって思っていたら違うんですね。

しの:それは農家さんによって全然違うと思う。うちの場合は旦那さんのご両親が別居でいいんじゃないかって言ってくれて、ありがたいことにスープの冷めない距離に家も建ててくれたので、別居です。

真矢:農業は旦那さんのご家族と一緒にされているのですよね?

しの:旦那さんのご両親とお姉さんと旦那さんと私でやっています。ただ、トマトを栽培しているビニールハウスが三つあって、旦那さんと私が作業しているビニールハウスとほかの家族が作業しているビニールハウスは場所がわかれているので、私は旦那さんとだけ一緒に働いているっていう日も多いです。

真矢:仕事の中で役割分担はあるんですか?

しの:基本的に大事な部分は男性がやって、女性はお手伝いっていうか簡単な作業をやるっていうざっくりとした分担はある。例えば、温度管理っていうのがあって、それを間違えるとトマトが枯れたりするから大事な仕事なのね。具体的にいうとビニールハウスの中に、もう一つ開閉式のビニールの天井を作って、それをカーテンっていうのだけど、そのカーテンを開け閉めして温度を管理するの。そのカーテンの開け閉めの仕事は男性がやっている。

ビニールハウスのしのさん
写真の左上にカーテンがみえる、撮影時は開いていた

農家のお嫁さんのタイムスケジュール

真矢:一日のスケジュールってどんな感じですか?

しの:朝起きて、旦那さんと一緒のビニールハウスで働いて、お昼になったら自宅に戻って昼食を食べて、必ず昼寝をします。その後、またビニールハウスで働いて、時間になったら作業を終えて自宅に帰って、そのあとは自由時間です。ごはんは基本的に三食私が作って、洗濯などの家事も私がします。

真矢:農業に家事にだと大変だね。

しの:食事を作ったり、洗濯などの家事をするために、私の方が旦那さんよりあとにビニールハウスに行ったり、先に自宅に帰ってきたりするので、自分だけが大変とかは思わない。私がそうやって家事をしている間も、旦那さんはビニールハウスで仕事をしているから、農業に関しては旦那さんの方がずっと労働時間は長いので。

真矢:休みっていうのはどういう風に決めているんですか?

しの:基本は、この日は用事があるから休みたいですって旦那さんに言う。用事が無ければ、休まない。それは旦那さんも同じ。

真矢:一般的な会社員が週休二日だとすると、どれぐらい休んでいる感じ?

しの:月に二日か三日って感じかな。

真矢:だいぶ休みが少なく感じるけど、体感としてはどうなんですか?

しの:少ないなとは感じますね。ただ私は、今日の午後は買い物行こうとか、今日は洗濯物がたまっているから、午前中はビニールハウスに出ないで家にいようとか、そういうことをする時もあるし。それにトマト農家はすごく仕事上がりが早いのね。普通の人が、7時とか8時まで仕事をしているのに比べたら、うちは大体4時には終わっている。

真矢:それはいいなあ。4時っていうのは何か理由があるの?

しの:トマトが病気になりやすくなるから日が出ている間しか作業しちゃいけないのね。だから日が長い時は5時位まで作業出来る。それに湿度が高いとばい菌も入りやすいから、朝早くに作業も朝露とかで病気になりそうで……、あんまりやったことない。うちはそうなだけで、他の農家さんがどうかはわからないけれど。

真矢:年間で一番忙しい時期はいつになるんですか?

しの:ゴールデンウィークの頃ですね。うちはトマトがほとんどだけど、お米も作っていて、ゴールデンウィークに田植えがあって、同じ時期にトマトの収穫も並行しているから、一番忙しい。

真矢:田植えしながらトマトの収穫もするんですね。それは大変そう…。今日の取材のためにしのさんが用意したメモがあるのですが、そこに8月はホリデイって書いてありますね。

しのさんが取材のために用意したメモ

しの:8月はやることがあんまりなくて。20日間ぐらいは休んでいるかなあ。男性は草刈りとかがあるんだけど。

真矢:これまでのお話を聞いていると、農業体験した時とのギャップはほとんど無かったようだけど?

しの:そんなには無かった。ただ肉体労働って、やっぱり大変だなとは思いました。

真矢:結婚前にしていたイベントの仕事も肉体労働的なイメージがあるけど、それとは違った?

しの:確かにイベントの仕事も椅子を並べたり、肉体労働の部分はあったんだけど、それだけじゃなかったし、座る時間もあったし。

真矢:農業で肉体労働をしている中で身体をこわしたりとかはしなかった?

しの:ちょっとはあったけど、ひどく身体をこわしたりとかは全然しなかった。むしろ身体を動かして、どんどん健康になっていったって思う。農業をはじめる前は、顔色が悪いって言われたり、電車では絶対座ってた。朝もわりとフラフラで貧血気味。でも今は電車でも立っていられるし、そんなに朝フラフラすることはなくなった。母にも結婚前よりずっと健康的になったって言われます。腰痛持ちだったんだけど、気をつけることで体の使い方を覚えて、腰が痛くならなくなったし、力も強くなった。

農業をする中で変化した“責任”に対する考え方

真矢:イベントの仕事をしていた時の話で、一日で仕事が終わるのが自分に合ってたって言ってたけど、農業は正反対ですよね?

しの:そうですね。イベントの仕事は、一日で終わるし、これをこれだけやれば終わりっていう先が見える仕事だったけど、農業は先が見えないからね。

真矢:先が見えないっていうのは、例えば、今日はここまでは作業出来たけど、まだこの先にやることがいっぱいあるってこと?

しの:そう。「トマトの苗を5千本手作業で植えます」とかだから。

真矢:一日何本植えて、それを何日やれば終わるっていうだいたいのスケジュールはあるんだろうけど、目に見えている仕事としては、永遠に続くかのように感じそうだよね。終わったら終わったで、次の作業もあるだろうし。そういう先が見えない仕事はつらくはなかったの?

しの:そうですね。そこに関しては、責任があるか無いかの問題かも。イベントの仕事みたいに一日で終わるっていうのは、一日でその責任から解放されるってことで、それがすごく好きだったんだけど、今はロングスパンでやっていて、ずっとトマトを枯らしちゃいけないっていう責任のもとに働くようになって、責任に対する考え方が変わったと思う。

真矢:それはどういう風に変わっていったのかな?

しの:最初はイベントの仕事をアルバイトでしていた頃と同じで、言われたことをやっていればよかった。手伝えることがないか聞いて、やって、時間になったら家族に「もうしまいなよ(しまう=仕事を終わらせること)」って言われて帰る。そこに責任はなかったと思う。誰でもできる仕事だから、自分じゃなくてもいいや、と思ってた。

真矢:でも、それが変化していったんですよね。何かキッカケや理由があったんですか?

しの:うん。自分の作業がトマトの出来にガンガン反映されることがわかってきて、こわくなった。花びら取り(咲き終わった花びらを手で摘み取る作業)をやりきれなかったところはカビて病気になる。脇芽(葉の付け根から出てくる新芽、小さいうちに摘み取る)をそのままにしておいたところは成長が悪くなる。実すぐり(多すぎる実を一定の数に剪定すること)をしなかったら実が小さくなって出荷に影響する。そうなってくると、やはり責任を感じるようになるよね。怖いと思ったし、がんばれない自分を責めました。でもやるしかないって思った。腹をくくったっていうほど、重い感じではないけど、私はここで旦那さんと、トマトを育てる仕事をやってくって以外の人生は考えられなくて、選択肢が無いっていうより、なんか嫌なのね。他の道を選びたくない。旦那さんのことが大好きで、彼と二人で生活をはじめたいっていう気持ちが強くて結婚して、その当時は農業はそれについてくるもので、仕事は別に何でもよかった。でも今の実感としては、彼と一緒に農業する生活が、自分をまともな人間にしてくれるって思っている。だからそこでやる仕事はちゃんとやりたい。だからその責任から逃げたいって思わなくなったね。
それでもトマトを育てる作業は膨大だから、やり切れるもんじゃなくて、自分の作業が足りてない部分を毎回みせつけられるんですよね。本当やってもやっても終わらなくて、嫌だなっていうのは、正直今もあります。でも、やったことは裏切らないのね、やれてない部分はそのままだけど、やった部分に対しては結果が出る。例えば、さっき言った実すぐり(多すぎる実を一定の数に剪定すること)、それをやると明らかにトマトの実が大きくなるのね。それを実感して頑張ったかいがあったなって思ったり、そういうことに励まされて、前に進めているところはありますね。

ビニールハウスに咲くトマトの花

次回は、結婚後にしのさんを大きく変えた「孤独」の話を中心に伺っていきます。

※この記事は2018年2月に取材し、連載が中断されていたものを、この度最後まで掲載させていただきました。時間が経ち、当時とは違った見え方になる部分もあると思いますが、お読みいただければ幸いです。(真矢)

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