toggle
2020-07-22

トマト農家のお嫁さんがみている世界~第3回 農家のお嫁さんの味わい深い孤独~(聞き手:真矢)

※この記事は2018年2月に取材したものになります

第3回:農家のお嫁さんの味わい深い孤独

前回のおさらい

トマト農家のお嫁さんのしのさんにインタビューさせていただき、前回は農家としての具体的な生活ぶりや、農業をしていく中で変化していった責任についての考え方を伺いました。今回は日々の暮らしの中で、しのさんが感じた「孤独」を中心に話を伺います。

主婦になって気づいた生活の大切さ

真矢:農業に携わるようになった以外に結婚して変わったことってありますか?

しの:純粋な生活の部分では、食事が変わったんですよ。主婦になって一日三食家で作るようになって、フリーターだった時は、朝はキヨスクで買って、お昼はコンビニで買って、夜は誰かと外食して帰るっていうことが多くて…。仕事が優先で食事は二の次だったのね。
でも今は、食事が仕事と同じぐらい大事で、掃除をするとか洗濯をするとかを含めた生活の部分が仕事と同じ比重であるのね。そういう生活の中で、フリーターだった頃の私を思い出すと馬鹿だったなって思う。

真矢:えー!? 20代の若者は、だいたいそんなものなのかなと思うけど、そういう風に思うのはなぜ?

しの:フリーターの頃は、ただ職場で必要とされて、今日もありがとうって言われるためだったら自分の生活の部分なんて本当になくていいって思ってたの。ただ人に、迷惑かけないぐらいに清潔にして、メイクして、空腹で倒れないぐらいにご飯を食べていれば、家にいる時間とかは別になくていいって。それぐらい人から必要とされたり、それがお金として手に入ることがすごく幸せだった。でも今はそんな人に仕事は頼みたくないなって思う。そういう人に脆さを感じてしまうから。

真矢:どういう部分に脆さを感じる?

しの:そういう人は、栄養も睡眠もたいして足りてないのに、若さにまかせて、いつも火事場の馬鹿力で働いているような感じにみえて、長くは持たずにどこかで折れてしまうんだろうなって今は思ってしまう。精神的にも肉体的にも土台がグラグラしているようにみえるというか。

真矢:確かに話を聞いていて、人の役に立てたら嬉しいって気持ちは人間にとって自然な気持ちだとは思うけれど、とにかく人から必要とされたい、生活やその他はどうでもいいっていう気持ちは危ないと思った。自分の価値を、他者に委ねすぎているし、それをお金だけで測ってしまうと、もしそれが無くなった時に立ち直れないというか…。そう考えると確かに脆いよね。

しの:そうなの。仕事から離れた自分はたった一人の人間で、友達もそんなにいないし、職場に行かなければ同年代の人と喋る時間もそんなに無い、つまんない孤独な人間なんだっていうことをちゃんと思い知ってない人って、調子がいいときは良くても、仕事でポキッて折れると、すごいそれを引きずると思うのね。若いなあ、可愛いなあ、気のいい奴だなって思うんだけどもね。

台所に立つしのさん

真矢:そういう風に感じるようになったきっかけはありますか?

しの:明確なきっかけはなくて、主婦ってすごく孤独だなと思う中で、段々とお金を含めて色々なことに対する考え方が変わっていった気がする。主婦として「私は今日も一日、一円も稼ぎませんでした。」って卑屈な感じで思う日もある一方で、「あれ?でも今、大事なことしてるんじゃない」って段々思うようになった。だから、一日中家事をやって一円も稼がない人達の偉大さを今は感じて、そこへのリスペクトがある。

真矢:私はあんまり一円も稼いでいないっていう風には思わない。だって生活の部分がない人っていないじゃない?結局みんな、自分でやるか、誰かにやってもらっているか、お金で解決しているわけだから。

しの:そうだね。生活の部分なんてどうでもいいって思っていたのは、結婚するまで私が、実家暮らしだったからっていうのも大きいと思う。ご飯も洗濯もお風呂も全部お母さんがやってくれていたのが、結婚して自分でやるようになって、いい仕事するためにも、ちゃんと食べなきゃとか、ちゃんと洗濯されたものを着なきゃとか、そういうことにはじめて気がついた。それで、そうやって色んなことに気がつけたのは、私の中では「孤独」っていうのが一番大きかった気がするのね。一人でいると色々考えて感じられるから。

しのさんが作るトマトのスープ

人生を味わい深くする「孤独」の効用

しの:この生活は家族以外とほぼ喋らないし、今日は夫としか喋ってないなって時もある。夫と同じ家にいても、お互い別々のことをやってる時も多いしね。そういう生活をしていると、ガールズトークとか、ルミネとか、駅ビルとか、そういうものがすごく恋しくなって…。でもここには無いし、だからただ、自分で自分を楽しませることを一人でやっていくしかなくて、それでいっぱい楽しいことは出来たんだけど、そういう生活の中で孤独がすごく自分にとって、いいものなんだなって、いい効果をもたらすものなんだなって、思うようになったのね。

真矢:孤独のいい効果っていうのは?

しの:誰か友達と会えたときにすごいその人を大切に出来ること。離れている友達と予定を合わせて、高い交通費をかけて、会いに行くっていう、以前だったらしなかったような、手間をかけて会うようになったおかげで、その友達と一緒にいる時間がすごく貴重で、ずっと濃くなった。その人のことが好きだって強く実感できた。
自分が孤独だってことを知らなかったり、薄々感じながらも目をつぶって生きていたのがフリーターの頃だったと思うんだけど、その時よりも受け入れた今の方がずっと地に足がついたと思う。

真矢:孤独に耐えられなくなったことはなかったんですか?

しの:それは無かった。ずっと我慢してたわけじゃなくて、寂しいなーって思って、友達に会いに行ったりはしてたから。そうやって友達に会いに行く時って朝からすごく楽しいし、もっと言えば前の晩からもう楽しいし、こんなに濃く友達との待ち合わせを味わえるなんて、孤独のおかげだなって。同じ時間、同じ金額でも、孤独を知る前と今じゃ、濃厚さが全然違うっていう感じで、友達と会って「今日はすごく楽しかったー!よし、明日からまた頑張るかー」って思えるしね。そうやってたまに都会にも出かけて、家の近くじゃなかなか食べれないパニーニやスコーンを食べて味わって帰るのがすごく幸せだなって思う。そうやって色々濃く味わえるようになった。でもそれは私だけが特別に孤独なわけじゃなくて、みんなそうなんだろうなって思う。そういう孤独を知ってる人と知らない人で、分かれる部分があって、私は知ってる方がいいなあって、その方が人生楽しいかなって今は思っている。

自分と向き合う時間が教えてくれたこと

しの:バリバリのキャリアウーマンで、完全に自立出来てから結婚するっていうのが夢だったのね。夢っていうか、人はそうすべきだろっていうぐらいの勢いで思っていたの。

真矢:確かに私も子どもの頃は、大人になったらバリバリ働いて自立するものって思っていました。世代的が近いからかな。

しの:でも今仮に、独身で10年OLをやっていたとしたら、今私が気づいて大事だって思っていることに、はたして気づけていただろうかって疑問に思う。都会は急がしすぎて、人が沢山いすぎて、職場に行ったら頭のいい人がいっぱいいて…。そういう風に沢山の人がいる中で、日々大量の仕事に翻弄されて、十年とかあっという間に経ってしまっていたんじゃないかなあ。

真矢:確かに忙しく仕事をしていると、あっという間に年月が過ぎていくっていう実感はありますね。

しの:孤独はいいなあって思うこととか、不自由だけど、今の方がずっと幸せだって思うのは、やっぱり時間が沢山あったから、考えられたことだと思うの。今の生活は身体を動かしていても、頭が暇な時が多いから、ゆっくり一人でお洗濯したり、お料理したり、色々やりながら自分と向き合っている時間が長いのね。それは農作業もそうで、トマトを収穫している時も、いろんなことを考えている。だから、今こういう生活をさせてもらえていることに感謝している。

食事を作るしのさん

次回は最終回!! しのさんがトマトを育てながら感じたことを中心に伺います。

※この記事は2018年2月に取材し、連載が中断されていたものを、この度最後まで掲載させていただきました。時間が経ち、当時とは違った見え方になる部分もあると思いますが、お読みいただければ幸いです。(真矢)

関連記事