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2019-11-28

暮らしの道具店ロク|品揃えを変えないこだわりが、心地よく人と物と付き合うことに繋がる。

洗練されたシンプルで機能的な文具や生活用品。ダイナミックな絵付けにも関わらず、大地の感触が手に馴染む器たち。異色の組み合わせにも思える物が不思議と調和している。

そして、暮らしの道具店といえば、暮らしのぬくもりや台所のあたたかみを木や布などから感じることが多い。しかし、ロクの内装は鉄など無機質な素材を用いて形作られおり、中性的で程よいそっけなさを感じさせる。物や人との距離感が程よく、なぜか心地よさを感じるのだ。

そんなロクは、開店以来、お取り扱いする商品の品揃えがほとんど変化しない。変えないことへのこだわりや、少し独特ともいえるお店の価値観をお伺いしました。

−もともとは会社員をされていたと伺いましたが、お店を開くに至った経緯は?

昔から、道具や暮らしの中でつかう自分の身体に近い物が好きでした。ですから、会社に属していた時から、ライフスタイルショップのようなところで、物販や買い付けに携わっていました。

会社員で仕事をしている頃も、道具やものに対する好奇心や好きさは、ずっと変わらず増していきました。

ただ、会社だと売り上げをつくるために、企画をうったり、新商品をいれたり、売れなくなったらセールをかけて売り切ることが必要になります。それと、お客さんに対して自分がつかっていないものを説明しなくてはいけない。もちろん、お給料を頂いて仕事していますので、商品への理解を深めるために、商品勉強会を行なって知識で補うなど、出来ることは重ねました。ですが、物が好きだからこそ、物を消費的なサイクルの中で販売することがつらくなっていきました。

どんなに好きな会社や、自分がここだ、って思う会社に入っても、この違和感は解消できないんですよね。物が好きでこの仕事に携わっているのに、自分が心地いい形で大切に出来ない。会社で勤める以上、この感覚に蓋をして働いていかなくてはいけないのかと思うと、それが苦しくなっていきました。

ふと、自分が実際につかっていて商品を隅々まで理解している物だけを売る。そうすれば、物や作り手さんを大切にできるような形で物を届けることが出来るのではないかと考えました。そして、そうすることが、お客様にもじっくりと納得して購買していただくことにも繋がっていくのではないかと考えて、ロクを開店することにしました。昔から自分で店を営みたいと思っていた訳ではありませんでしたので、どちらかというと消去法でお店を始めたとも言えます。

−お店の価値観はどのようなことをもとに形作られているのでしょうか?

ロクのお店の価値観は、自分の物の購入の仕方や付き合い方を基にしています。

私は物を選ぶ時の条件が辛いため、自分にフィットするものを見つけるまでに非常に苦労します。例えば、それがタオルだとしても、買えなくなったら、一から自分に合う物を探さなくてはいけないじゃないですか。極端に言うと、私にとっては時間の無駄だし、ストレスに感じます。

だから、ロクではそれぞれの購入したいタイミングに買い足しや買い替えができるように「一度お取り扱いを始めた商品を自己都合で変えない」ということは決めています。

商品を変えないということは、当たり前ですが同じメーカーさんや窯元さんとお付き合いするということです。

一般的には、商品供給がなくなったら、卸先との関係性がぷつっと切れて、担当や窓口が変わることもありますよね。人の繋がり方がこまぎれで、すごくビジネス的に途切れていく。

例えば、売れなくなったから、もうお取り扱いをやめてしまうとか、付き合う場所によっては当たり前にあります。こういう世界だから。

でも、私の場合は、売れる売れないというのは関係なく、私がそれを扱いたいかで決めています。

メーカーの方も、本当ありがたくて、私の性格やどういう考え方でお店をやっているのかも分かっているので、私が好む物も分かってくださっています。だから、窯元さんも、私が興味をもっている話や器をもってきてくださったりとかします。

そうやって、同じメーカーさんや窯元さんと長く付き合うことで、年数経つ程どんどん関係としては硬くなっていく。今では買い付けに行っても、安心感に包まれています。お互い。

最初からそういうことが軸を強くしていくことに関わると思ってやっていた訳ではありませんが、同じメーカーさんや窯元さんとお付き合いするということが、結果的にお店の軸に繋がっていったと気づきました。

もちろん、「商品を変えない」とは言っても、メーカーさんの事由によって供給が出来ないのでしたら、取り扱い出来なくても致し方がないかもしれません。ですが、例えば、新鮮味が無いからや、売れないから変えました、というお店の事情でお取り扱いしないというのは、売り手の立場として身勝手だと私は思います。

あるいは、自分が齢をとったときに、心地よく感じる生活も変わっていくと思うんですよ。

例えば、極端な話、80、90歳になって、力がなくなって、フライパンが重くて持つのがしんどいのに、それをよしと言えるかというと難しいと思います。そうすると、その年齢まで私がこのお店をやっていたとしたら、商品は変わるはずですよね。だから、短期スパンでは変えないけれど、長期的には変わることもあるかもしれないと思います。

−それだけメーカーさんや窯元さんへの信頼感やつながりが深いとお客さんへも自信をもっておすすめ出来そうですね。

そうです。同じ窯元やメーカーさんとお付き合いすることで、お客さんに対してもなんでも話せるようになります。

窯元さん、作っている方、場所も分かっている。物の背景の全てが自分の中で染み付いており、その足場がすごく大きいので、お客さんに何を聞かれてもほぼ答えられると思います。

来てくださるお客さん以上に、物を知っていて扱っているので、この人に聞いてみたら、相談できるなと思っていただける、というのもお客さんの安心感に繋がると思います。

−ロクでは、企画展などを行わないのもそういった理由からでしょうか?

そうですね。例えば、今週末までの企画展やセールなら、今しか買えないかもしれないという期間限定の要素が、買うきっかけに入りますよね。本当に欲しい物かどうかというよりも、限定によって購買意欲をそそり、焦りを煽って販売するのは、私がお客さんの立場を考えるとしたくないと思います。

ひとつの物に対して飽きるのが早かったら、それでもいいかもしれませんし、楽しみの品や消耗品は、限定でもいいのかもしれません。けれども、ロクで置いている物は長く使う物ですから、焦って購入していただきたくないと考えています。

―ロクに置いてある物は距離感が心地よいように感じますが橋本さんの物への価値観が影響しているのでしょうか。

そういったところに気づいてくださると、すごく嬉しいです。

もちろん、使っているものに対して、ひとつひとつに愛着はあります。ですが、それに特別な想い入れが強すぎたら、家の中で主張しすぎてしまって生活できないですよ。大事なのですが、大事にしすぎると日常がおかしいことになります。

だから、お客さんにもあまり特別な物として感じて欲しくないなっていうのもどこかで思っていて。もちろん、大事につかって頂きたいけど、大事すぎてつかえないとはいって欲しくないと思っています。それで、お店で商品を並べるときにも、特別感を演出しすぎないようにしています。

例えば、ギャラリーさんが作家さんのことをすごく愛していて、綺麗に照明をピッとあてて、パスッパスッと置くような展示ディスプレイをしたりすると思います。でも、そうするとお客さんが変にハードルを高くしてしまって、触っていいか分からない物になってしまう。そうではなくって、全然触っていただいて構わない感じに置いています。

だから、ロクはどれも均一に見えるように置いています。ひとつひとつはおかない。積み重ねて置いて、単純に大きさで陳列をしています。

お店の什器も無機質な鉄やなんでもない木をつかいました。温度感のある、ぬくもりのある木の上に、布をかけて、とかではなく。置いている台が主張しないように、背景になるように、陳列しています。ディスプレイにはならないようにしています。

それ以外にも、お客さんのアイデアで自由に物を使って欲しいという思いから、ディスプレイをあえてしていません。例えばテーブルセッティングをすると、そのイメージが物についてしまうからです。「これってこの用途で使うんだ」ってお客さんが思ってしまう。でも、日常の物は、その人が使いたいように使えばいいんですよ。

ディスプレイは、使い方の提案を無言でしてしまうことになりますよね。もちろん、使い方の想像がつかない方に対しては、すごく優しいとは思います。けれども、第一印象を最初のパッと見でこちらがつけてしまうのは、なんかもったいないというか。

お店は実店舗なので、使い方が分からない方には、口頭で補足したり質問していただいたりすることもできますよね。だから、お客さんが全然知らずに自分でフラットにみて、実際目の前で触れるというその感覚をまず、大切にしたいと考えています。

例えば、ネットショッピングの場合はお客さんが直接触れられないので、触れてわかることを全部言葉にして情報にしないといけないじゃないですか。でも、店舗に来ているのであれば、自分から触れることで、自分で情報をとれる。お客さんには、前情報を大切にするのではなくて、現場というか生のライブ感や実際に触れることに重きをおいて頂きたいのです。

だからこそ、キャプションはあまり書きすぎないようにしていますし、接客でも自分からは話かけないようにしています。

もちろん、聞かれたら存分に説明いたしますが、そういう考えなので、お客さんが来たときに、ぐぐっとはいかないっていう。もちろん、お客さんによってぐいぐい来て欲しいひともいるんで、それはもうケースバイケースで難しさもあります。だからこそ、実店舗をやっていておもしろいし、やり続けられるのだと思います。

実店舗って、すごく今の時代から考えると非効率です。でも、実店舗じゃないとやっていないと思います。きっと全く同じ考え方で、同じ品揃えでネットショップやっていても、全然仕事としておもしろくない気がします。

店舗だと、誰がくるか分からないし、何がここから起こるか分からない…っていう、予期せぬことが起こることを私が楽しんでいるのかもしれないですね。

 


 

実際に自分の目や手触りを大切にしながら、物に触れてみる。分からないことは、伺っても良いが、その時の感覚から沸きあがる自由な着想をもとに、自分の暮らしの中で物と付き合っていく、という話が印象的でした。

店舗に足を運んでいただき、実際にロクの物の肌合いを感じることが出来なくても、普段の買い物や身の回りの道具に触れるときに、自分だけの感覚に耳をすましてみませんか。そうすると、消費的に物をつかうスタンスからいつの間にか離れ、物との関わり合い方や選び方が自然と健やかで心地よくなっていくのかもしれませんね。

 

人間のこころを起点として、社会や暮らしの今と未来を考察しています。興味のあるテーマは、集団や組織における個人のエンパワメント/未来の共同体のかたちと公正な運営/空間表現と場づくりです。

連絡先:s.yoshimi1220@gmail.com    https://note.mu/yoshimio1220

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