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2019-06-13

梅雨の作る楽しみ~完熟梅のシロップ煮~

新緑の葉は梅雨の雨が当たるとよりいっそう緑色に深みを増し生命力やら息吹といった言葉を感じずにはいられません。
雨粒は紫陽花の葉を揺らしさっきまでそこにいたはずのでんでん虫はいつのまにかどこかに行ってしまいました。

私は一人で狭い花もりの店内で座って作業をしています。まるで桃のような甘い香りを放つ黄色い梅の前に座り黙々と手を動かし、奥から聞こえる子供がおかあさんと遊ぶ声をBGM代わりにその梅を竹串でまんべんなく突いています。

ビニール袋で包まれた青い梅を購入したのはおよそ一週間前のことで袋のまま梅を黄色くなるまで寝かせておきます。するとまるで桃かのような甘い香りを放ち始めます。

袋から出して置いておくと水分が抜けてしわができてしまうので袋のままにしておくことが重要です。


一年前のこの時期も同じように梅を黄色くなるまで寝かしていました。すると二歳に満たない子供が梅の香りを思いきり吸い込んでとろけるような顔で笑っていました。それから一年が経ちましたが同じように梅を嗅ぎ
「いいにょい、いいにょい(いい匂い)」
と言って梅の前から離れません。

子供が季節の香りを楽しむ姿に親として成長を実感します。この春は鶯の声で両手を挙げてお尻を振って踊っていましたしカエルの声でも同様に踊っていました。
情緒が育っていくことは子供の靴のサイズが大きくなるのと同様でうれしいことです。

アクを抜けやすくするために竹串で全体に穴を開けた梅は海水程度の塩水に落とします。二時間ほど塩水に浸けた後は中火にかけます。沸騰する前に梅が浮いてきますのでこれが火を止めるタイミングです。そのまま一時間放置して余熱で火を入れて、チョロチョロ流水で一時間さらして塩分を抜きます。

1リットルの水に対して1キロの砂糖と200ccのホワイトリカーを合わせて火にかけます。沸騰したら沸騰を続ける程度に火を弱め五分程度でアルコールが抜けるので火を止めます。

これで大体1.5kgの梅のシロップ煮ができる分量のレシピですので作る量によって調節してください。
梅の塩抜きができたらひとつひとつバットなどに優しく持ち上げて並べてください。たくさんの水分が含まれていますので少し水分を取らないと味が変わってしまうので必ずこの作業はしてください。丁寧にしないと皮が破れるので気をつけて扱ってください。

シロップの入った鍋にひとつずつ梅を入れてから中火にかけます。沸騰しないように気をつけて大体80度で30分炊くと出来上がりです。

丸々として肉厚の梅は豊潤な香りを蓄え自然な甘さも持ち合わせています。酸味は少なくて酸っぱいものが好きな人には物足りないかも知れませんが、梅は酸っぱくて苦手と敬遠しがちな人には丁度いい味です。
花もりでは種を取った実とシロップを一緒にミキサーにかけてシャーベットを作ります。シロップだけで作っても十分美味しいのですが実が入ることで濃厚になりより美味しくなります。でも濃厚過ぎてカチカチに固まらなくて少しゆるめのシャーベットができます。これを炭酸で割ったり、素麺を食べるときのアクセントに使うとクエン酸も取れて熱中症対策にすごくいいですよ。

できあがった梅を見つけて子供が梅をせがんできます。
いつの間にか降り止んだ雨は辺りを水でコーティングしました。雲間から差す強い光は葉の表面の水に乱反射してピカピカの景色にしていきます。

この景色こそが私が一年で一番好きな景色です。

住んでいないと感じることができない景色ですが、子供は梅のシャーベットに舌鼓を打っているのでこの景色に気付きません。
情緒が豊かなのか、ただの食いしん坊なのか。
どちらにしても健やかに育つ子供の姿はピカピカに見えます。

この夏は自家製の完熟梅のシロップ煮で乗り越えてみませんか。

カエルの鳴き声で思わず踊ってしまうくらい美味しいですよ。

河向直樹

1978年奈良県出身。2005年より「山辺の道 花もり」という喫茶店を奈良県桜井市で夫婦で営んでいます。神話が好きで料理が好き。大神神社にある様々なミステリーを勝手に謎解きしながら日々仕込みをしています。今一番気になっていることはは大神神社の摂社である「神坐日向神社」が北向きに建てられている謎です。三輪はどれだけ住んでも飽きない場所です。

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