「香りで楽しむ焼きナス~テモウシのエピソードを添えて~」
ゴールデンウィークまでは膝より低い位置にあったタケノコもあれよあれよという間に背丈を越えていました。
四月のどんよりとした空に比べて五月の空はすっきり高く見えます。
まるでタケノコの成長に合わせて上へ上へと押しあげられたような高い位置に雲はプカプカ浮かんでいます。
子供がしゃがんで遊ぶ地面には、頑張ってもくるぶしまでしか成長しないシロツメクサが咲いています。
子供は花に近づくと
「いい匂い。」と言います。
私は内心、
「本当かなあ。シロツメクサは匂いなんてしないでしょう。」
と思いながらも鼻を近づけました。
すると目の前にてんとう虫が現れます。
「テモウシ父しゃん取って。」
てんとう虫を上手く発音できない子供の声がシロツメクサに覆われた野に響きます。
結局、てんとう虫は捕まえたものの子供は臆病で触ることはできません。
私は野に顔を近づけててんとう虫を返してあげた後は青々しいシロツメクサの匂いがふんわり鼻をかすめました。
本当に匂いがありました。疑ってごめんなさい。
でもこれは初めての匂いじゃなくって、知っている匂い。
三十年くらい前に忘れた匂い。
高い空の下で地面に顔を近づけて思い出します。
その時は大事だった色んな匂いを忘れているだろうな。
粘土質の土の匂い、
蛍を捕まえた後の手の匂い、
川で手づかみしたハエジャコの匂い。
何だか色々な香りを思い出してきました。
今日はこの時期の香りを楽しむ料理を始めましょう。
今回は奈良の伝統野菜の大和丸ナスで焼きナスを作ります。普通のナスでも大丈夫です。
セオリーに従うと切れ目を入れて焼きますが今日は香りを重視するので香りを閉じ込める為にそのまま焼きます。
じっくりしっかり焼いて硬い所が無くなれば火が通ったサインです。火が通れば水に落とさずまな板の上で転がすと皮が剥きやすくなります。
火傷に気をつけて皮を剥いてください。焼きナスの甘い香りが無くなるのでなるべく水は当てないでください。慌てる必要はないので落ち着いてゆっくりで大丈夫です。
本題はこの後です。
焼きナスに同量の牛乳を合わせてミキサーにかけごく少量の塩で味を整えます。
これで焼きナスのソースの完成です。
これを何にかけるかと言うと、
焼きナスです。
ナスにナスを合わせることでナスの香りを最大に生かします。
牛乳とナスはミスマッチに思うかも知れませんが焼きナスの甘さと牛乳の甘さがちょうど同じ。実はすごく相性がいいんです。
味付けが塩で整えるだけでいいことに不思議に感じましたか。焼きナスの持つ香りと旨味成分が多いため、出汁が必要ありません。
牛乳の量を増やせば焼きナスの冷製スープの完成です。
初夏の香りをたっぷり感じるスープはいかがですか。
来年のこの時期に思い出すような新しい香りの記憶を増やしてみてください。
