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2019-02-25

“働く”をチューニングする その3「“心の筋トレ”としての内省」

“働く”をチューニングすると題したこのシリーズ、第1回は「キャリアの自己決定と偶発性」、第2回は「組織・コミュニティとの幸せな付き合い方」について考えました。この第3回が最後となります。

第1回の冒頭で私は、“自分らしく幸せに暮らすこと”と“社会や組織の期待に応えること”を両立する、生きることと働くことを近づけるためのすり合わせ(チューニング)について考えたい、と書きました。

これをもう一歩、私の“願い”として表現し直すと、“自分自身が心からやりたい・好きだと思えていて、しかも他者や社会にとって意味があると感じられる仕事に、自分の強み・才能・時間を注ぎ込みたい。そして、それを実現できる人が増えてほしい”ということになります。

そのためには、会社・組織のあり方や社会の認識といった外部環境の変化も必要だと感じつつも、ここでは最も手前で内側にある“自己成長・自己認識”からアプローチしていく考え方や手法を紹介したいと思います。

先に一言で表現すれば、“心の筋トレ”のようなものです。

自己成長を持続させる経験学習サイクル

私たちが“自らの強み・才能を伸ばしたい”と考えた時に、どんな行動を選ぶでしょうか。新たな仕事・機会にチャレンジする、役に立ちそうな本を読む、評判の良いセミナーや勉強会に参加する、どれも意味のあることです。これらはどれも“経験や知識の量を増やす”ことにつながりますし、“成長”と言った時の一般的なイメージだと思います。

一方で、実は“立ち止まって”経験や学びをふり返る(内省・リフレクションする)ことこそが重要だと説いたのは、1900年前後に活躍した哲学者、ジョン・デューイでした。さらに後年のデービッド・コルブという研究者が、“経験学習サイクル”というモデルとして発展させました。

 

①具体的経験についてふり返り、②内省的観察を深めて学び・気づきに変えて、③抽象的概念化によって他のことに応用可能な理論や理解を得て、次なる④能動的実験に役立てる、というサイクルです。この繰り返しによって私たちの思考や行動は磨かれる、ということですね。

私たちは仕事や生活を通して多くの経験を得ますが、それを次に活かせる“知恵”に変換するには、一度立ち止まって内省・ふり返りを行う必要があるということです。

忙しさの中でつい後回しになってしまいそうですが、私の感覚的には、できれば半年に1回以上、大きなプロジェクトの節目などがあれば適宜、そのための時間をとった方が良さそうです。手法としては、まずは“経験した出来事”“その時の自分の感情や気づき”を洗い出し、さらに“自分の成功法則・失敗法則”といった抽象化ができると良いと思います。合わせてコラムの1回目に紹介した“Will・Can・Must”の問いに向き合うことも有効です。

メタ認知とメンタルモデルの発見

内省の効果のもうひとつの側面として、“メタ認知”があると考えています。意味合いとしてはこちらの方が“心の筋トレ”に近いですね。

メタ認知とは、“もうひとりの自分”が“いまの自分”を見つめている感覚で、自己理解を行うことを言う、認知心理学由来の概念です。“いま(あの時)私は喜んでいるんだ”“ああ、私はこういう時に怒りがちなんだ”といった具合です。自分を深く理解したり、多様な側面を発見したりすることで、突発的な感情に行動を左右されにくくなったり、強みを発揮できそうな場面を自覚できたり、といった効果があると思います。

もう一歩進んで、“メンタルモデル”の発見についても紹介しておきます。メンタルモデルとは、私たちが過去の経験や学習から培ってきた、“こういう場合にはたいていこうなるものだ”“私はそもそもこういう人間だ”といったような、常に持っている仮説や固定観念のことを言います。ピーター・センゲの「学習する組織」やオットー・シャーマーの「U理論」、ロバート・キーガンの「免疫マップ」において、考え方や手法が紹介されています。個人だけではなく、組織レベルにおけるメンタルモデルの形成についても言及されています。

例として、私自身のメンタルモデルについて少し紹介します。ひとりで行った内省や、受講したリーダーシップ開発研修などで明らかになったのですが、私は私自身のことを“有能じゃないと存在意義がない”“生きている意味がない人”と認識している側面があり、かなり強力な固定観念として思考や行動を縛っていました。そのため、なんでも仕事を引き受けようとする、人の目をかなり気にする、自己評価が低い、といった習性が現れていました。こうして書いていてもいまだに痛みを覚えますが、こういう側面があると自己認識できた時点で、ずいぶん気持ちは楽になりました。“恐怖や怒りを発生させる得体の知れない何か”から“いくつかある自分の多面性のひとつ”として取り扱うことができるようになったからだと思います。

私の例のように、メンタルモデルの発見は、多くの場合痛みを伴うものでもあります。コンディションが良い時に向き合う方が良いですし、できれば信頼できる仲間やコーチとともに取り組むことをおすすめします。

自分らしさとは何か

最近、“自分らしさ”というキーワードをよく目にするようになりました。私も、自分らしく生きる・働くことはとても大切なことだと思います。

ただ、本当の意味で自分らしさとは何なのでしょうか。単純に“やりたいこと・好きなことをやる”という表現では浅いという気もします。私たちは多くの人や周囲の環境に影響を受けながら生きていますし、あり方を少しずつ変化させていきます。確固たる揺るぎない“軸”のようなものを持つことには憧れますが、それも絶対不変のものではないのだと思います。

私たちの“自分らしさ”とは、経験と時間によって、徐々に変化していくものなのです。

だからこそ、時々は立ち止まり内省をする。心の筋トレを積んでおいて、外部環境の変化や、意思決定が求められるタイミングに、流されず対応できるようにしておく。その積み重ねによってチューニングをしながら、働くこと、生きることの納得感を高めていく。

そうした習慣を持つことが、私たちの生き心地を良くしてくれるのではないでしょうか。

■所属 NPO法人CRファクトリー 理事・事業部長 一般社団法人JIMI-Lab 代表 GRASS ボードメンバー ものがたり法人FireWorks 地域プロデューサー 株式会社ウィル・シード 研修講師

■経歴・キャリア 2008年~2014年まで東京都北区役所に勤務。 公務員による自主勉強会に参加したことをきっかけに、数多くのコミュニティやプロジェクトに関わるようになり、徐々にのめり込んでいく。公務員は続けながらも、イベントコーディネーターや講師・ファシリテーター、NPOマーケティング、ボランティアマネジメントなどの経験を積んだ。 2015年から独立し、現在は複数の団体・企業に所属するマルチジョブのスタイルで、経営者やプロデューサー、コンサルタントなどの顔を持つ。研修講師・ファシリテーターとしては、年間約150回の出講を行う。

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